国際電話を悪用した特殊詐欺の対策

 

1.序章

特殊詐欺に悪用される電話番号について、令和五年(2023年)8月頃までは本人確認不要の050から始まるIP電話*1*2を悪用している事が多かった様なのですが、携帯電話不正利用防止法の改正(新規契約時の本人確認義務化)が令和五年(2023年)8月に公布、令和六年(2024年)4月に施行された影響か、令和五年(2023年)9月以降は国際電話を悪用する事が多くなっています。

biz.trustdock.io

www.npa.go.jp

ここで注目すべきは、ただ単に割合だけが変化した訳ではない、という事実です。

警察庁ウェブサイトにて公開されている「特殊詐欺に犯行利用された番号種別の推移」の、令和五年版と最新版を参照して比較すると分かりやすいですが、固定電話や携帯電話による件数は徐々に増加、IP電話は一時2200件程度だったものが徐々に減少したものの、それでも多い月には1200件から1300件程度で推移しています。

一方、国際電話はほぼ無かったのが今や毎月8000件を超えるのが当たり前になりつつあって、合計件数で言うと爆増していると言って良い状況です。

ここまで急激に増加した理由は当ウェブサイトの中の人には分かりませんが、ロボコールが広く悪用される様になった事も一つの理由かも知れません。

ロボコールとは録音した音声やAIを用いた自動音声通話の事で、元々は官庁のガイダンスや企業のアンケートなどに利用される事を想定していた様ですが、現在では自動発信させまくって繋がったら犯罪者へ転送するという形で、その仕組みが悪用されている様です。

news.yahoo.co.jp

この記事では、国際電話を悪用した特殊詐欺に対抗する為に最低限必要と考えられる知識を解説します。なお、令和七年(2025年)8月時点の情報に基づいて記載しているので、その点は注意して下さい。

2.電話番号の仕組み

まずは、電話番号の仕組みがどういうものか理解する必要が有りますので、要点を記載していきます。

なお、記載する解説は電話番号の偽装がされていない事を前提にしています。詳細は別の項目にて記載しますが、スプーフィングという電話番号自体を偽装する手法も存在していますので、少しでも不審な点がある電話は、電話番号が偽装されている可能性を考慮した方が良いでしょう。

一般的な固定電話*3へ電話する際は、東京では「03」、大阪では「06」、横浜では「045」・・・の様に頭へ「0」を付けますが、これを含めて市外局番だと思っている方が多いと思います。

実際には、「0」の部分は「国内プレフィックス」と呼ばれるもので、国内通話の合図として用いられています。

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これが国際電話となると、「国際プレフィックス」と呼ばれる番号に加えて、「国番号」を付け加えてから、相手国内の電話番号をダイヤルする事になります。具体的なダイヤル方法の例は総務省のQ&Aに掲載されていますので、興味がある方は読んでみてください。

3.国番号

国際電話を悪用した特殊詐欺で問題になってくるのは国番号の部分で、スマートフォン(以下、スマホ)などで頭に「+1」などと表示されている部分です。なお、端末によっては国番号が欠落した状態で表示されますので、いま一度、取扱説明書を再確認しておきましょう。

次に、国際電話で用いる国番号の一覧を示します。

www.docomo.ne.jp

www.au.com

どの国番号でも特殊詐欺に悪用される可能性は有り、実際に発信国は頻繁に変化しているので常に警戒すべきなのですが、特に警戒すべき国番号の代表例として

以上が挙げられます。市外局番については、別の項目で解説します。

news.trendmicro.com

www.subline.jp

「+800」は国際フリーフォンと呼ばれるもので、日本国内でのフリーダイヤルに相当する電話番号です。この番号は国際的に使用できる番号の為、発信者の特定が困難な事が特徴とされています。

whoscall.com

「+875」は特殊用途向けの電話番号の一例で、この番号自体は海上移動業務用に抑えられている番号です。このような番号も発信者の特定が困難な事が特徴です。

4.市外局番

市外局番も国番号と同様に、どの番号でも特殊詐欺に悪用される可能性は有り、市外局番も頻繁に変化しているので常に警戒すべきなのですが、特に警戒すべき市外局番の代表例として

  • (200)
  • (700)
  • (833)や(844)、(855)
  • (900)番台

以上が挙げられます。

4-1.「(200)」の番号

「(200)」の番号は、アメリカやカナダからの国番号と組み合わせた形で着信履歴に残っている事が多い様です。

つまり、着信履歴には「+1(200)」などと表示される事になりますが、アメリカやカナダで市外局番として「(200)」が割り当てられている地域はない事、また、国番号として「+12」や「+120」、「+1200」が割り当てられている国もないので、電話番号自体が別の地域から発信しつつ、北米地域発信だと偽装されている可能性すら有ります。

4-2.「(700)」の番号

「(700)」の番号も、アメリカやカナダからの国番号と組み合わせた形で着信履歴に残っている事が多い様です。

つまり、着信履歴には「+1(700)」などと表示される事になりますが、アメリカやカナダでも市外局番として割り当てられていない、一部の通信事業者が使うのみの特殊な番号のため、通常は見かける事はない様です。

4-3.「(833)」、「(844)」、「(855)」の番号

「(833)」、「(844)」、「(855)」などの番号は、アメリカやカナダで使用されているトールフリー番号で、日本国内におけるフリーダイヤルに相当します。絶対に詐欺だと断言できる訳では有りませんが、警戒すべき番号だと言えるでしょう。

4-4.「(900)」番台の番号

「(900)」番台の番号は、Premium Rate Numberとして通常の通話料のほかに情報料が発生する番号で、日本国内におけるかつてのダイヤルQ2に相当します。

5.通話料金

日本国内で契約した電話番号に、日本国内で国際電話が着信しただけだと料金は発生しません。但し、海外で着信した場合は着信料金や電話に対する税金が課金される場合が有ります。

www.softbank.jp

特殊詐欺に係る電話番号に出てしまう、または折り返しの電話をした場合の金銭的な被害として

  • トールフリー(着信課金番号)でも、発信者へ国際電話に係る通話料が発生
  • Premium Rate Numberに自動転送されて、情報料が発生

以上の様な懸念が有ります。

トールフリー(着信課金番号)でも発信者に通話料が発生するとはどういう事なのか分かりにくいですが、国際電話自体に発信者課金の原則がある為です。余談ですが、米国国内でもスマホからトールフリー(着信課金番号)へ電話してしまうと、通話料金が課金される仕組みになっていると言います。

www.softbank.jp

www.hanacell.com

なお、国際電話に係る通話料の中には海外通信事業者へ支払う接続料も含まれていますが、海外通信事業者へ支払った接続料の一部が、犯罪者へ横流しされている事例も有る様です。

6.リスク管理

6-1.標的にされない為に

特殊詐欺に係る電話番号に出てしまう、または折り返しの電話をした場合の金銭的な被害の懸念は前項目で解説した通りですが、さらに恐ろしいのは

  • 犯罪者から、詐欺に有効な電話番号だと認識されて標的にされる
  • 犯罪者から、いわゆるアポ電強盗の標的にされる

以上の様な懸念も考えられる、という事です。

例えば、特殊詐欺に係る電話へ迂闊に出てしまうと、その時点で普段使用されている電話番号なのか否か、また、在宅している曜日や時間帯(もしくは逆に、必ず不在の曜日や時間帯)のヒントを与えてしまう可能性が有ります。

また、特殊詐欺に係る電話へ出てしまった場合、一言も発せずに電話を切る事も重要ですが、電話を通じて周りの騒音を犯罪者が聞いてしまう状況も極力避けた方が良いと考えられます。

例えば、スマホにかかってきた特殊詐欺に係る電話で、給湯器の音声ガイドを聞かれると自宅に居る可能性が高いと判断されやすいでしょう。

また、付近を通過している鉄道の騒音などは、知識が有れば現在時刻、標的にされてしまった人がよく立ち寄る場所(立ち寄る場所自体の特定は、SNSがヒントになったりします)と、その付近を走行する路線の運行ダイヤなどをそれぞれ組み合わせていくと、知らない内に詳細な行動パターンの情報を提供してしまう可能性さえ有ります。

かかってきた電話番号をSNSなどで公開するだけでも、SNSなどで過去に公開した写真なども組み合わせる事でヒントを与えてしまう可能性が有るので、かかってきた事も含めSNSなどで第三者が簡単に見れる状態で公開しても問題ないか、一度立ち止まって検討した方が良いでしょう。

6-2.国際的詐欺の手法

犯罪者から標的にされてしまった場合、国際的詐欺の手法を何も知らないとそのまま騙されるリスクが非常に高くなりますが、事前に知っておくと騙される前に気付いて警察へ通報できるかも知れません。

興味がある方は参考文献を提示しますので、読んでみてください。

www.anzen.mofa.go.jp

www.jetro.go.jp

7.電話番号の偽装

電話番号は通信事業者が管理するものですが、中には着信側に対して、本来の発信番号とは異なる電話番号を提示する機能を提供している通信事業者も存在しています。

また、そういったサービスを使用せずとも書き換えに必要な技術を用いると、発信側の電話番号を全く別の番号へ書き換えた上で着信側へ提示する事が可能です。

これは元々、社用携帯から発信しても着信側には企業の代表番号が表示される、の様な目的で構築されている仕組みなのですが、特殊詐欺ではこれを悪用して電話番号を偽装する手法も存在しています。これをスプーフィングと呼びます。

www.itmedia.co.jp

国内から電話を発信する場合、固定電話やスマホの回線については平成十七年(2005年)頃に策定されたガイドラインにより対策が実施されている為、スプーフィングによる電話番号の偽装は困難だと考えられています。

www.tca.or.jp

xtech.nikkei.com

一方で、海外を含めたIP電話を提供する通信事業者の中には、発信者IDの部分で電話番号や名前を任意に設定できる事も有ります。また、最近は発信転送サービスで行われている対策の抜け道を悪用した手法が登場した可能性も指摘されています。その為、警戒を怠らない方が身のためです。

www.itmedia.co.jp

xtech.nikkei.com

なお、正規に利用されているIP電話の機器類のセキュリティホールを突いて不正に発信しているケースも有るので、運用している人はセキュリティ対策をしっかりと行いましょう。

www.soumu.go.jp

8.電話の対策方法

個人で可能な対策方法として、最も厳しい考え方から妥協した考え方まで、例を示します。

8-1.対策アプリを使用する

最も手軽に効果を得られる方法です。欠点は、使用したいアプリが必ずしも手元のスマホ等で使用できるとは限らない、費用が発生する事がある、判別の精度に問題が有る(着信時に弾くべき着信を弾かない、発信時に誤って不正な電話番号と認識して電話をかけられない)場合もある、などが挙げられます。

8-2.登録済みの番号以外は反応しない

事前に登録してある電話番号以外には一切応答せず、また折り返しもしない方法です。原始的では有っても効果的な方法ですが、欠点は、電話の運用にかなり制限をかける必要が有る、という点です。

8-3.「050」、「+1」「+86」、「800」などは反応しない

発信元が「050」のIP電話、「+1」「+86」などの国際電話、「800」などのフリーダイヤルやプレミアムナンバーには一切応答せず、また折り返しもしない方法です。セキュリティ面と運用面のバランスをとりやすいですが、欠点は、電話番号を偽装されていたら見分けられない、という点です。

8-4.非通知だけは問答無用で着信拒否

着信した電話には原則として応答しつつ、非通知は問答無用で着信拒否する方法です。効率的な運用を行えますが、欠点は、Premium Rate Numberに自動転送されてしまうと、その時点で金銭的な被害が発生する可能性が有る事です。

8-5.不審点を感じたら切断する

着信した電話には原則として応答しつつ、不審な点を感じたら切断する方法です。着信した電話を取りこぼす事は有りませんが、欠点は、特殊詐欺に巻き込まれるリスクが高い事です。

9.結論

極端では有りますが、セキュリティ面のリスクを考慮すると、事前に登録している電話番号以外には一切応答せず、登録済みの電話番号でも不在着信の履歴ではなく電話帳から発信する、と考える位が丁度良いでしょう。

着信拒否ですが、端末の設定方法には次のような方法が有ります。

詳細はOSのバージョンや設置条件によって異なりますので、各自調べてみてください。

なお、固定電話の場合は国際電話の発信や着信を休止する方法も有るので、検討すると良いでしょう。

www.ntt-east.co.jp

www.npa.go.jp

余談ですが、米国などではIP電話についてSTIR/SHAKENによる発信者ID認証の技術により、発信者IDの不正な改ざんが行われていないか認証する技術が用いられ始めている様です。

しかしこの技術も、英語版Wikipediaによると技術的な限界が既に指摘されている事、英国では意見公募の結果から「For the reasons set out above, we have decided that, although CLI authentication has the potential to be an effective tool in preventing scam calls from spoofed numbers, our assessment is that we should not proceed with CLI authentication at this time.」と、一旦はこの技術の採用を見送る決定をしています。

Calling Line Identification (CLI) authentication assessment and future roadmap
(PDF形式)

10.相談窓口

国際電話による特殊詐欺の爆増から、令和七年(2025年)6月10日より総務省が相談センターを立ち上げた様です。

国際電話による不審な着信・詐欺被害に関する情報提供や相談を受け付けている様なので、相談したい人は連絡を検討してみてください。

www.softbank.jp

www.denwan.jp

11.おまけ

クラシックPC(いわゆるレトロPC)でお馴染みのMS-DOSPC-DOSのバージョン3.0以降では、Windows11の言語と地域(以前のWindowsにおける「地域のプロパティ」や「地域と言語のオプション」に相当)と同等の設定を、CONFIG.SYSにてCOUNTRYコマンドを用いる事によって実現できると言います。

MS-DOSPC/AT互換機*4向けのものはCOUNTRYコマンドが実装されていますが、PC-9800シリーズ*5FM TOWNS*6など他機種向けのものは実装されているのか不明です。 また日本語版の場合、指定できるのは欧米のいわゆる1バイト言語と日本語のみで、他の2バイト言語はそれぞれに対応したDOSが必要という情報も有ります。

COUNTRYコマンドを用いるを用いると、言語のほかに日付や時間の形式も変化する様です。

少々面白いのがここから先の話で、COUNTRYコマンドで国を指定する際は国際電話の国番号を用いる様です。クラシックPC(いわゆるレトロPC)を触っている方は、国際電話の国番号を覚えておいて損はない・・・かも知れませんね。

*1:VoIP(Voice over Internet Protocol)を使用した電話システムの事。誤解されがちだが、IP電話は一般のインターネットとは接続しておらず、あくまでも「インターネットの技術を活用して、通信事業者が所有する専用のインターネット回線で通話する電話システム」である。

*2:総務省が公表する通信白書などでは、IP電話は050で始まる「050型IP電話」と、固定電話と同様の市外局番で始まる「0ABJ型IP電話」に区別されているが、警察庁が公表する広報資料では「050番号」と記載しているので、この記事では「050から始まるIP電話」と記載している。

*3:つまり、「0△△0」型や「1△△」型の様な特殊な番号を除いた電話番号

*4:1984年に発売されたIBM PC/ATに端を発する系譜で、業界標準を積み上げて仕様の拡張や整理がなされたアーキテクチャのパソコン。

*5:日本電気株式会社(担当していたのは情報処理部門)が1982年から2003年まで製造したパソコン。黄金期には圧倒的なシェアを誇り、セイコーエプソン株式会社のPCシリーズなど互換機も存在していた。

*6:富士通株式会社が1989年から1995年(ハイブリッド機を含めると1997年)まで製造したパソコン。日本初の、CD-ROMドライブを標準搭載したパソコンとして有名。